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安保法案成立 [政治]

9月19日、様々な議論・批判を呼んだ安保関連法案が参議院本会議で可決・成立しました。

いかに反対デモが盛り上がろうが、衆参両院において与党が安定多数を確保している以上、このような帰結になるのは多くの人にとって想定の範囲内であったと思われます。

法案の成否以上に大事なのは、むしろこれからの運動の展開であると思われます。

この日をもって戦後民主主義の敗北を読み取る向きもあろうかと思いますが、私は楽観しています。一般の(とりわけ若い)人にまで「立憲主義」なる言葉が膾炙し、一般人がデモに参加するハードルも下がりました。これから法案に参加した議員に対する落選運動も起こるでしょう。

このような状況を見るにつけ、この国において本当の意味での民主主義を獲得する過程が、今、始まったと思えるのです。

そうするためには、法案の成立に際して砂をかむ思いをした人は皆、この日をしっかりと胸に刻み、決して忘れないことが一番肝要なのです。

2015年、9月19日という、この日を!!

日本未来の党 [政治]

2012年12月27日、滋賀県知事嘉田由紀子氏を党首とする「日本未来の党」の結党が発表されました。結党当初から、来る衆議院総選挙をにらんでの寄り合いとの批判がありましたが、その政策・理念は重要なものがあったと思われます。

具体的には「びわこ宣言」という形で提示されましたが、その内容を要約すれば、①持続可能な社会の実現、②環境主義、③社会的・文化的多様性の確保、④官僚制・原発・安易な増税に依存しない社会・経済・財政環境の創設、・・・といえるでしょうか。その他、外交・安全保障などについては、アメリカに対する依存度を下げるような外交・貿易・安全保障体制の確立を志向しているようにも見えます。

上記のような主張をするのは、日本では主に左翼でした。しかし、未来の党に合流した勢力を見るとこれまでと様子が異なるのに気づきます。小沢一郎氏や亀井静香氏といった、保守勢力が合流していたからです。

話は多少ずれますが、今回の総選挙において国民新党が沖縄の基地問題について、基地負担の軽減を訴えていたのをご存知でしょうか。このような主張をするのも日本では主に左翼で、保守派は対米関係を重視して辺野古移設案を速やかに実行すべきと主張してきたものです。その他、たとえば貿易についてTPPに反対する姿勢を示すなど、国民新党は対米関係において距離を置く保守勢力であるように見えました。

内紛により国民新党は散りじりになってしましますが、生みの親である亀井氏もそのような主張を持つ人物であることは容易に想像できます。

反米保守の流れです。

未来の党は当初から選挙目的の寄り合い所帯と批判されましたが、その理念・政策を見れば、官僚・原発・アメリカ依存からの脱却を目指して右と左が手を組む可能性を示唆したのではないでしょうか。

未来の党には沢山の著名人がその理念に賛同の声を上げました。稲盛和夫、坂本龍一、菅原文田、茂木健一郎、鳥越俊太郎、これらの著名人も未来の党の政策・理念に共鳴し可能性を見出したのです。

総選挙の結果は、周知の通り惨憺たる有様。未来の党は60を越える改選議席を大幅に減らし二桁に満たない議席しか獲得できませんでした。その後、嘉田代表は責任を取る形で代表を辞任、元社民党の阿部氏と共に小沢氏を共同代表にすべしとの提案を嘉田氏が蹴ったために党内対立が決定的、結党一月余りで未来の党は分裂してしまいました。

週刊誌などに分党に至る過程が書いてあるようですが、嘉田氏の稚拙さ非周到さは否めません。しかし、その理念・政策そして左右が大同において団結する試みは評価してもよいのではないでしょうか。

総選挙における三大争点は、原発・消費税・TPPでしたが、有権者が実際に投票において重視した争点は、経済・雇用でした。大勝した自民党総裁の安倍氏は有権者のそうした声にこたえる形で大胆な金融政策による経済対策を主張し、何もしてないうちから円安・株高をもたらしました。対照的に惨敗した未来の党の政策は、国民の関心も低く、実現に手間隙がかかり、政治的なコストのかかるものばかり、それでいて中長期的にはどのような立場を取ろうとも直面せざるを得ない問題です。

有権者は選挙にいて目先の利益を重視し、近視眼的な選択をしたとは思います。いまさらそれを批判しても詮無い話ですが、今回の総選挙でどのような選択をしたのか、少しは内省的に考えてみても良いのではないでしょうか。



2012 総選挙 [政治]

12月16日、衆議院総選挙が行われました。下馬評どおり自・公で300議席を大幅に上回り、参議院で否決された法案を再可決するのに必要な三分の二をも確保しました。

そもそも解散を決意した野田元総理に明確な戦略やアジェンダも存在せず、ただ日本維新の会の準備が整う前のこの時期に選挙をしたほうが民主党の負けが少なくなるであろう・・・、というような消極的な意図ぐらいしか読み取ることが出来ず、盛り上がりに欠ける選挙となってしましました。事実今回の総選挙は、戦後最低の投票率を記録し、自公圧勝の一因となったことは間違いありません。

今回の総選挙の争点は、メディア的には①原発②消費税③TPPということになっていましたが国民は経済・雇用問題に関心があったようで、それにうまく答えた安倍氏に比較的支持が集まってしまいました。三つの争点の中でも原発・エネルギー問題は関しては、論者によって脱原発・反原発・卒原発など違いが分からない言葉が乱れ飛ぶ中で言葉遊びをしているかのような印象を有権者に与えてしまい、事実上争点から外れてしまった感があります。

最もその煽りを食ったのが「未来の党」で、改選前60以上あった議席を一桁にまで減らしてしまいました。しかも総選挙後には共同代表に小沢氏を迎えるのを嘉田氏が拒否した格好で、未来の党は結党一月足らずで分党することになってしましました。未来の党の訴えた理念には重要なものが沢山あったにもかかわらず、このような帰結を迎えてしまったことでその理念も胡散臭いものに見えてしまうとしたら真に残念です。小沢・亀井氏と嘉田氏の間で、折り合いをつけることが出来なかったのはどんな問題なのか、今後検証が俟たれるところです。

民主党政権中には沢山の出来事がありました。冤罪事件や検察官による証拠の捏造、総選挙前に無罪が確定した小沢事件、沖縄の基地問題、これらことごとく総選挙においてまともに議論されませんでした。民主党政権において積み残されたこれらの問題を省みられることなく、選挙結果もメディアの予想を上回る民主党の大敗北・・・。リベラル勢力にはまだまだ取り組むべき大きな課題があったにもかかわらず、風前の灯火となってしまった現状はある種絶望的です。民主党は、一日も早く解党的出直しをしてリベラル勢力を再結集してほしいものです。

自民党は比例において大敗した前回の総選挙と大して変わらない得票であったにも関わらず
大勝した要因は、一に低投票率、二に小選挙区制、三に小党乱立が上げられるでしょう。一と三は制度上の問題ではありませんが、二は法律を改正すれば変更できます。毎年総理大臣が変わる要因も小選挙区制にあると思われるので、そろそろ選挙制度も本格的に議論して欲しいと思います。

一時代を築いた政治家たちも国会を去りました。鳩山由紀、森嘉朗、羽田孜、渡部恒三、特に渡部氏は福島県選出であるにも関わらず、原発問題について一切目立った言動が無いと言う怠慢ぶり。出自やしがらみもあるでしょうが、さっさと隠居して正解です。

最高裁判事国民審査も前回以上に事態が進展しているように思えません。ネットを使ってもこれと言った情報は手に入らず、唯一頼みにしていた神保哲生のビデオニュース・ドットコムは、総選挙直前に国民審査特集をやったので見ることが出来ず、審査に反映させることができませんでした。司法ジャーナリズムの拡充も、この国の大きな課題です。

総選挙の2日前ぐらい前に秋葉原で行われた安倍晋三の街頭演説に、どこから沸いて出てきたか日の丸を掲げた群集が多数押し寄せた画像をニュースなどで視聴した方も多いと思います。私は日本の右傾化をあまり心配していませんが、いくつかの報道によれば、いよいよ女性の間でも安倍シンパが増えているという情報を見聞するにつけ、状況は好ましくない方向に向かっていると思います。

思えば「日本を取り戻す」という自民党のスローガンは、喪失感に駆られた女性たちの心に響いてしまったのかもしれません。取り戻せるものは取り戻すにやぶさかではありませんが、もはや受け入れなければならない変革や、諦めなければならないものもあると思います。そのような余力のあるうちに、自立的・自足的な経済・雇用環境を一刻も早く築き上げなければなりません。

安倍内閣発足時の高い支持率がそのような方向に向かうことを祈るばかりです。




政局と領土問題 [政治]

三党合意に基づいて、総理が「近いうちに解散する」と発言して幾日が経過したでしょうか。総理が解散権の行使をちらつかせて野党と駆け引きをする局面が続いている状況は、慢性的な「政局」が続いていると考えて良いのではないでしょうか。

オリンピックが開催された関係もあって、報道もこの慢性政局を食傷気味に伝えるのみ。かく言う私も、これほどまでに関心を失った政局は、政治に関心を持ち始めて以来、記憶にありません。

なぜ政局に関心がもてないのか、自分なりに考えてみました。

第一に、民主党政権が参院選に敗北して以降、完全にレイムダック化してしまい、明白な敵が国民にとって分かりにくくなった事。これは対立軸が成熟かつ収斂してくればやむ終えないことです。

第二に、いよいよ政界も人材が枯渇が深刻化した事。自民党はかつて見た顔の安倍氏、民主党に至っては来る総選挙に向けて戦えそうも無い野田氏が再選してしましました。民主党代表選は結果があらかじめ分かっているので全く盛り上がらず、自民党総裁選も候補者の基本政策に全く違いがないと言う信じられない事態に対して、これからの日本の展望が見出せないとの感想を抱くのは私だけではないでしょう。

多くの国会議員はこの代表選・総裁選に対して本気で臨んでいないでしょう。すでに政界再編以後の立ち居振る舞いで頭が一杯な筈・・・心ここにあらずです。これで、政局が盛り上がるはずも無いと言うことでしょう。

オリンピック開催中に韓国の李大統領が竹島に上陸して俄かに領土問題が再燃、畳み掛けるように中国の活動家も尖閣列島に上陸、そして日本側も尖閣列島を国有化した事により、中国各地で反日運動が激化してしまいます。ときあたかもかつて柳条湖事件が発生して毎年反日運動が起こっているこの時期、日本においては民主・自民の代表選・総裁選が行われ安易に妥協できない雰囲気での国有化という措置は、十分に周到なものだったといえるのでしょうか。

10月上旬に放送されたTBSのサンデー・モーニングという番組で、尖閣問題をめぐる欧米メディアの日本に対する見方を紹介していました。それらはいづれも、日本の右傾化を懸念する内容なのだそうです。領土問題をめぐっては、一見世論が右傾化していると見えなくも無いですが、日本全体が右傾化しているとは私には思われませんし、そもそも事はそういう問題でしょうか。

日本が周辺国と領土問題で紛争の種を持ち続けること、そしてアジア諸国に対して日本の右傾化を喧伝し印象付けることが、とりわけアメリカの国益になることを私たちは弁えなければなりません。

私たちは、右傾化だの左傾化だのといった凡庸な対立軸の中で思考停止することがあってはならないのです。

竹島も尖閣列島も北方領土も背後にアメリカの影がちらつきます。原発だろうがTPP・普天間だろうが、今度の代表選・総裁選で論点になったことの多くは対米関係が影を落としています。

アメリカとどう付き合って行くのか、この問題を不問に付して国の形を論じることはもはや出来ないのです。対米関係を考えることは国民の関心が薄い割には、政治的なコストがかかる厄介な問題です。下手をすれば虎の尾を踏んで政治生命を失うかも知れません。しかし、保守政党を自認する自民党の総裁選において、原発・普天間基地問題・TPPに対する政策が各候補者全く同じというのは正気の沙汰とは思われません。

それとも対米依存が日本の保守だと開き直る人がいるでしょうか。これまでそうであったとしても、そのような保守のあり方そのものが問われる総裁選であるべきなのに、それができなかったというのは、自民党も死んでいるということなのでしょう。

対米関係に国民が無関心なら、政治家は国民に問題を提起し、その関心を皆で喚起すべきです。

赤信号、みんなで渡ればこわくない!!

来る政界再編において対米関係が正面から議論され、それを対立軸に離合・集散がなされなければ日本の展望を開くことは出来ないと思われます。

「6.2政局」の意義 [政治]

6月2日、衆議院に提出された内閣不信任案が圧倒的多数で否決されました。
菅首相と鳩山元首相の話し合いで、震災・原発について一定のメドがついた時点で辞任する意向を受け、民主党内は一気に否決になだれ込みました。4日放送の「報道特集」によれば、小沢氏率いる一新会もこの流れを受け会員に対して「否決」を促すファックスをいっせいに送信したそうです。

その後、辞任の時期をめぐって二転三転・民主党内のゴタゴタが続きましたが、遅くとも八月、早ければ今月中の辞任は避けられない情勢となってまいりました。

多くのメディアが震災・原発の被災者が未だ体育館での不自由な生活を強いられる中、このような政局で政治空白を作るのは愚の骨頂であるといった論調で、被災者の冷ややかな目線・声を紹介していました。被災者の視点からこのような政局を「茶番」と評するのは無理もないとして、一般人はそのような感慨にふけって終わりにして良いのでしょうか?

そもそもサミット前からサミット開催中にかけてエネルギー政策について大きな潮目の変化があったのではないでしょうか。

いわゆる発送電分離案が政府内で検討されていると最初に報じられたのは4月4日、その後5月17日には枝野官房長官が発送電分離案に言及、それを受けて菅首相は18日の記者会見で今後のエネルギー基本計画において電力の地域独占体制を見直すとの発言がありました。

これに対して原発・エネルギー利権に関わってきた議員の多い自民党が敏感に反応し、慎重に議論すべきだという声が上がりました。地域独占の大前提である発送電の垂直統合を分離することに、どう見ても自民党は消極的でした。

その後サミット開催中に菅首相が、再生可能エネルギーの割合を20年台の早期に20%にする、太陽光発電パネルを国内1000万戸に設置する等のエネルギー政策を、経済産業省の頭越しに独断で国際公約してしまいます。

サミット前・期間中の流れを通じて、菅内閣が発送電分離案をアジェンダとすることにより自民党を分断し、改革に消極的な「抵抗勢力」であるかのように印象付けることに成功しました。震災以来その対応をめぐって批判され続け守勢に回ってきた菅内閣が、エネルギー政策を梃として攻勢に出ようとした格好です。

自民党はこのような潮目の変化に何とか水を差したいと思ったに違いありません。

「なぜこんな時期に内閣不信任を・・・」と多くの人が疑問に思ったことでしょう。しかしニュースを見る限り、主要メディアは被災者の冷ややかな目線を紹介するにとどまり、エネルギー政策と関連付けた報道は皆無でした。少しでもリテラシーがあるなら、先ず最初にこのようなエネルギー政策をめぐる潮目の変化に気づくべきですし、そのような報道がなされてしかるべきです。やはり、東電タブーは健在なのでしょうか・・・

・・・と思っていましたら、やはり主要メディアにもまともな人はいるものです。6月4日付けのビデオニュース・ドットコムにおいて、「菅降ろしの影に原発」と題した東京新聞の記事が紹介されていました。市民運動出身の菅首相が原発・エネルギー利権というこの国の禁忌に触れてしまった、これに危機感を持った自・公・小沢派が内閣不信任可決に向けて動いたのではないか、という趣旨の記事です。

内閣不信任を画策するということは上記のようなエネルギー政策が国会のアジェンダとなるのを阻止し、そしてそれが否決され解散総選挙も回避されたということは、総選挙においてエネルギー政策がアジェンダとなることも回避されたという意味を持つのです。原発族議員・経産官僚・東電の経営陣はほくそ笑んでいるに違いありません。

菅首相は退陣を余儀なくされ、自分の派閥すらまとめきれなかった鳩山元首相は影響力の低下をされけだし、政局は一気に大連立に動くことによって政界におけるいわゆる「小沢はずし」も本格化することでしょう。今回の政局によって世代交代は否応なしに加速します。

今回の政局によって、最低でも上記のような意味合いを読み取り報道するのでなければジャーナリズムではないと思います。徒に政治不信を煽るだけのジャーナリズムにこそ、被災者の冷たい視線は注がれるべきではないでしょうか。

尖閣漁船衝突事件-試される外交リテラシー- [政治]

尖閣漁船衝突事故が発生して以来、仙谷由人官房長官の評判がすこぶる悪いと思います。この事件の対応をめぐっての氏の言動が大きく国益を損ねていると思っている人が沢山いるのでしょう、「仙谷」「国賊」とキーワードで検索すると沢山のブログがヒットします。

なぜでしょう。

テレビの報道・情報番組等での尖閣問題の扱いは、おおよそ以下の通りです。
もともと尖閣諸島には日本人が住んでいた、そして中国政府も尖閣諸島が日本に帰属することを認める文書も残っている、70年代に入りこの海域に海底資源が眠っていることが明らかになって突如中国が領有権を主張しだした・・・。概略、どの番組もこのような歴史的経緯を紹介してます。

このような経緯を知っている多くの日本人が尖閣諸島について領有権を主張し、中国がそれに難癖をつけるのはあまりにも横暴・筋違い・ご都合主義であると考えるのはもっともですし、そのような認識は間違っているわけではありません。

しかし、実際の外交はこのような日本側の立場のみを反映して信頼関係を築けるものではないようです。

尖閣諸島における主権の帰属についていわゆる「棚上げ論」を日本政府は認めていませんが、少なくとも日中国交正常化以来、主権問題を曖昧にすることで日中間の信頼関係を築いてきたことは間違いないと思われます。そこで今回の漁船衝突事件を機に日本政府はこの事案を司法プロセスに載せる(言い換えればこの地域における日本の主権を明確にする)ということは、今まであった信頼関係の地平を切り崩すことになるのではないでしょうか。きっと中国側からは、日本側が喧嘩を売っているように見えているはずです。

外交において常に相手がある以上、中国側がどのような事情でかように強硬な報復措置を採っているのか我々はもっと関心を持っても良いのではないでしょうか。そのようか観点から、第494回丸激・トーク・オンデマンド「船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失策」は多くの示唆を与えてくれると思われます。

概略、漁船は拿捕した上で船長を釈放すべきであったこと、船長を逮捕し司法プロセスに乗せたことによって主権問題が浮上してしまい対日強硬派を刺激してしまうこと、春暁のガス田共同開発において対日強行派を宥めるのに四苦八苦してきた温家宝・胡錦濤という対日穏健派の中国国内における立場を弱くしてしまうこと、圧力に屈して船長を釈放してしまった(少なくとも対外的にはそう見えた)ことにより対日強硬派が台頭する可能性が高まること、実効支配を認めるという日本側にやや有利な「棚上げ論」という妥協点が日本側が主権問題を明確にしようとしたことによって危うくなること等々、一見毅然とした対応に見えた「船長逮捕」というオプションは多くの国益を損ねているという論点が紹介されていました。

このような事情を知れば、中国政府が採った強硬な手段そして温家宝氏の強い口調は対日穏健派の悲鳴にも聞こえてきます。まるで「我々を追い詰めないでくれ!!」という心の叫びのように・・・。

11月の「朝まで生テレビ-日中関係と朝鮮有事-」において船長の逮捕から釈放にまでの経緯が詳しく説明されていました。出演者の森本敏氏によれば、仙谷氏は当初からこの事件を司法プロセスに乗せるのは反対であり、菅首相と前原外相が外遊で日本を留守にしている間に法務関係者に働きかけ、釈放に至ったのだそうです。それは、拘留期限が迫り政治的に介入できるギリギリのタイミングを法律家とて見極めたうえでの行動であり、選択の余地が極めて少ない判断でした。

このようなギリギリの判断を迫られた仙谷氏が「国賊」でしょうか?

他に国益を損ねる言動をした人物はいなかったでしょうか?
事件当時国土交通大臣として船長の逮捕を強行し、外務大臣になってからも事態の打開をなんら図らず中国を刺激する言動をし続けた人物は?・・・

前原氏です!!

この人を見てると、具体的に対中関係を改善する考えがあったとは到底思えません。一見毅然とした印象をもたれる方も多いでしょうが、「偽メール問題」のときもそうであったように思慮深さや周到さが感じられません。本当に外交や安全保障の専門家なのでしょうか。

安倍晋三氏が総理大臣だったとき、氏は従軍慰安婦問題について「狭義の強制は無かった」と言いました。本人は毅然とした対応をしたつもりだったのでしょうが、結果はご存知の通り、アメリカの下院において「日本政府に対して謝罪を求める決議」が可決されてしましました。毅然としたつもりが、どのような帰結をもたらすかを周到に計算しなかったために、逆に国益を損ねた事例です。今回も、そのような事例に付け加えなければならないかもしれません。

仙谷氏が自らを小村寿太郎氏になぞらえて物議をかもしています。小村氏は、日英同盟締結の立役者であり日露戦争後の講和条約の締結に尽力しながら、世論の理解を得られず怒号の非難を浴びた政治家として知られる人物です。仙谷氏が彼ほど偉大であったかは議論の余地がありそうですが、今の仙谷氏に対する世論を見れば気持ちも分からないではありません。

外交問題は他の政治問題と比較してもとりわけリテラシーが必要であり、それいかんによって評価が正反対になるものだということを、今回の事件によって学習すべきではないでしょうか。ちょうど今、NHKで「坂の上の雲」を放送しています。クライマックスは来年まで持ち越しとなってしまいましたが、外交問題について多くの教訓を視聴者に与えて欲しいものです。



参議院選挙 [政治]

7月5日、参議院選挙の期日前投票に行って参りました。

いつも行っている区役所ではなく、横浜市の子供科学館の敷地内にある投票所に行ってきました。とても分かりづらい場所で案内役の人がいなければ決してたどり着けないような感じ、・・・もっとましな場所はないのでしょうか。

今回の参議院選挙は、消費税が争点になったと言われています。多くの論者が指摘していますが、これによって「普天間基地移設問題」や「政治とカネ」といった問題は争点から外れました。明らかに民主党に有利なこの展開、事の発端は自民党がマニフェストで消費税率10%に引き上げを掲げたことです。

自民党は責任野党として消費税率の引き上げを謳い対立軸を示そうとしたのでしょうが、そうはさせじと民主党も擦り寄り対立軸が曖昧になりました。石破茂氏は「抱きつきお化け」と民主党を評しましたが、選挙においてそのような批判は屁のツッパリにもならないのではないかと思います。ワードセンスもありません。

様々な世論調査において国民は消費税率の引き上げを容認し、自民党と民主党が消費税率の引き上げに賛成しているならば、事実上消費税率の引き上げは選挙の争点にはならないと思います。その他の小政党が消費税率に反対しても焼け石に水、民主党は労せずして消費税率引き上げの正当性を調達し、選挙後の政権運営にあたることが出来ます。

「普天間」と「政治とカネ」の問題は吹っ飛び、対立軸は曖昧になり、民主党に対する批判票は小党乱立により分散され死票と化し、選挙後は消費税率引き上げの口実を得る。

民主党の思う壺です。

自民党は本当にケンカ下手になりました。

普天間基地移設問題について鳩山元首相の腹案が徳之島案であることが明らかになった時点で、5月末までの解決が困難であり、参院選前の鳩山内閣退陣はほぼ確定であったと思われます。現に、6月はじめの永田町は首相がいつ退陣するかでもちきりでした。自民党はこのタイミングで先手を打って内閣不信任案を提出すれば、どうなったでしょうか。不信任案を可決すれば民主党が二分され、自民党も党勢が盛り上がったでしょう。否決すれば、信任されたことになり選挙前に首相を代える口実がなくなります。このダブルバインドで民主党をもっと追い込むことが出来たであろうと素人でも思いつきそうです。

なのに自民党はそうしませんでした・・・。結果として菅内閣が誕生し、民主党の党勢並びに内閣支持率は回復します。そして、参院選に突入。

いかに民主党の政権運営に不手際が続こうとも、しばらくは民主党にがんばってもらおうと思っている人は多いと思います。従って、このような自民党の度重なる失策も民主党政権の延命に手を貸しているからか、あまり注目されません。しかし、成熟した保守二大政党制が実現するためには、自民党は一日も早く保守政党としてのカラーを明確にし、したたかでケンカ上手な野党になって欲しいと思います。

・・・と願いつつ、さしあたって民主党を応援しようと比例代表の項目を見たら、あの八代英太氏がいつの間にか民主党の比例代表から立候補しているではありませんか。通信傍受法案の作成において尽力したといわれる氏が民主党から立候補するというのは、民主党のパーティー・アイデンティティにも関わる話だと思われます。納税者番号製の導入もささやかれる今日、かつて問題になった通信傍受法や住民基本台帳法の運用の是非も問われてしかるべき選挙だったのではないでしょうか。

皆さん投票に行きましょう。


起訴相当? [政治]

今年の元旦の「朝まで生テレビ」で、ジャーナリストの山際澄夫という人物が不可解な発言をしていました。いわく、今度の小沢問題の構図は検察VS小沢ではなく国民VS小沢である、検察は国民に成り代わって小沢の政治資金問題を追及しているのだ、と。

そんな馬鹿な!!

確かに小沢氏は政権与党内で多大なる影響力を行使している「権力者」であることは間違いありません。しかし、アメリカのように直接選挙によって検察を選出しているならいざ知らず、日本において「国民の代表者」は先ず直接選挙によって国民により選出された国会議員のはずですし、メディアの関心事は第一義的には国民の代表者たる国会議員の人権が捜査機関によって不当に侵害されていないかという問題であってしかるべきです。

勿論このような倒錯も元産経新聞の記者ならば致し方なし・・・として「ネタ」としてやり過ごすことも可能でしょうが、今日検察審査会が小沢氏に対して起訴相当の議決をなし、参院選を控えて大いに政治的意味を持ってしまった事態は、ネタでは済みそうにありません。

今回の事件に先んじて検察審査会がにわかに注目を集めたのは、二度にわたって検察審査会が「起訴相当」の議決がなされた場合は強制的に起訴されるという制度変更があったためです。「明石花火大会歩道橋事故」や「JR福知山線脱線事故」などの先例において強制起訴がなされましたが、これらの事件のように被告が警察関係者やJRという大企業の場合、検察審査会の制度自体の問題点は指摘されませんでした。

しかし今回、小沢氏に対する起訴相当の議決が政治的な意味を持つか否かに関わらず、検察審査会制度の欠陥が明らかになりました。第475回丸激トーク・オンデマンドにおいて、以前の制度においてもそれなりに是々非々で検察が起訴をしてきた実態を紹介していました。特捜が小沢氏を目の敵にして起訴に持ち込もうと躍起になっていたにも関わらず、公判を維持するだけの証拠が得られず不起訴になった事件を、法律の素人が新たな証拠や証言もなしに強制起訴に繋がる議決をした場合、一体どのような事態になるのでしょうか。考えてみれば、甚大な人権侵害をもたらす可能性が容易に想像できそうですが、誰もそれを指摘できなかったのでしょうか。あらかじめ指摘した人もいたかもしれませんが、「市民参加」の名の下にそのような声はかき消されたようです。

小沢一郎は今の政界において、いかなる人物でしょうか。
小泉純一郎は郵政族・道路族からなる経世会を目の敵にし、昨年の総選挙においては諸悪の根源は自民党でした。現時点では、最後の大物である小沢一郎はメディアにおいて影の実力者として扱われ、巨悪のように報道されています。民主党の支持率もいわゆる「危険水域」まで下がり、参院選挙を前に幹事長辞任カードを切る可能性もあります。

成熟社会とはあらゆる価値が、程度問題・文脈次第・条件付でしか議論できない社会です。普天間基地移設問題や子供手当ての問題がまったく進展しないのを見れば、そのことはよく分かります。あらゆる政策を是々非々で議論できる状況を作り出すためには、小沢氏のような「わかりやすい敵」がいなくなる必要があるのでしょうか。

検察の恣意的な捜査の問題や制度としての検察審査会の問題を指摘しつつも、小沢亡き後に日本の民主主義が新たな段階に入る予感がいたします。

小沢氏に対する重大な人権侵害と引き換えに、それは達成されることになるのでしょうか・・・。

小沢氏に対する起訴相当の議決のニュースを聞きながら、とても複雑な感情を抱く今日この頃です。

谷垣自民党誕生「みんなでやろうぜ」 [政治]

去る9月28日、自民党総裁選において谷垣氏が当選し、自民党総裁の座に着きました。

谷垣氏の「みんなでやろうぜ」というキャッチフレーズが自らの「保守」イメージを主張するものなのか、野党に転落した衝撃でバラバラになりそうな自民党を単につなぎとめるための方便なのか、真意は分かりません。

河野氏は、長老議員を「腐ったりんご」呼ばわりしたり派閥の領袖クラスを名指しで批判したりして、本当に総裁選に勝つ気があったのか、こちらも真意がつかめません。勝つ気があるのなら、うそでも挙党体制を主張すべきではなかったかと思いますが、かねてから排除の論理をちらつかせていた気がします。水面下では、新党結成を模索しているという噂がありますが、そうなれば総裁選で言いたいことを言って、自民党を踏み台にして飛び出す格好です。

次の参議院選挙までリベラル派の谷垣でどうやって対決姿勢をとるのか、民主党がコケるのを待つのみなのか、そもそもそのような戦略を描いて自民党をハンドリングしている人がいるのか、もしかしたら誰もいないのではないかと思います。

いずれにしても、あるべき「保守」についての議論が深まり、成熟した対立軸を形成する展開になって欲しいものです。その意味でも、中川氏の訃報は残念でした。存命であれば、保守勢力の再結集において中心となる人だったと思います。

自民党総裁選 [政治]

去る9月18日、自民党総裁選挙の候補者による立会演説会が行われました。
ビデオニュースであらまし紹介されていたのを見ましたが、谷垣氏と河野氏が「保守」という言葉を強調ちていたのが印象的でした。民主党が典型的なリベラル路線を掲げ政権に付いたことに鑑みれば、これはまっとうなことだと思います。

しかし有権者が民主党に投票したのは、民主党のリベラル路線に期待したからでは無く、現在の政権与党に完全に失望し、いったん民主党に任せてみようといった程度の話で、多くの有権者は「リベラル」VS「保守」といった対立軸にさほど関心は無いと思われます。

しかもこれだけ格差社会が深刻化し生活苦にあえいでいる人が多い状況の中では、どうしてもリベラル的な再配分政治のほうが有権者に響きます。今の自民党に目先の不人気に耐え、堂々と保守の理念を再確認したり強調したりすることができるか、はっきり言って疑問です。

それでもなお自民党には保守政治の何たるかを世に問うて欲しいと思います。たとえば、「小さな政府」という保守の理念が包摂的な社会を前提にするのならば、NPO法制などについては民主党以上にその拡充を主張しても良いのではないでしょうか。また、非正規雇用を減らし正規雇用を増やすといった具体的な問題について、連合の支持を得ている民主党とは違う主張が出来るはずです。

そのほかにも、昨今何かと重要なテーマである「共生」という理念についても具体的な問題を提起し世論を喚起して欲しいものです。このブログでも取り上げた「地域社会」「村八分」「談合」「祭りと性」といった問題について、保守の立場からリベラルとは違った理念・路線・政策を提起できるのではないかと思います。

結局、具体的な問題を論じることでしか有権者の民度も高まらないし、「リベラル」VS「保守」の成熟したイメージを獲得できないのではないかと思います。

「全員野球でいこう」と主張した谷垣氏に対し、河野氏は「全員野球ではだめだと思う」と切り返しました。これは単に世代の問題にとどまらない、あるべき「保守」イメージについての対立軸を形成していると思います。

このような観点から、活発な総裁選挙を期待したいと思います。さしあたり、河野氏は西村氏の「分断工作」に負けないで欲しいと思います。皆さん、西村氏の分断工作をネットで批判しましょう。

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